【ルポ】地獄のようなホテルに泊まった話

【ルポ】地獄のようなホテルに泊まった話


先日、会計検査院の報告により、無観客開催で行われた東京五輪の関連費用が大赤字を叩き出したことが明らかになった。

新型コロナの流行という未曾有の事態故のものであり、本当に「東京五輪」というものは呪われているのか?と気の毒になったが、五輪のために設備投資を行ったのは何も国だけではない。民間も同様だ。

その中で、一時期少し話題になったのがホテル不足によるホテルの新設である。
マンションを急遽改造したものなどもあり、話題を呼んだ。
その中でも特にユニークなのが、東京五輪に備え、ラブホテルをビジネスホテルに改装したというものだ。  
政府がこれを後押ししたということもあり、数々のラブホテルが結果的に大無駄になるとは知らず改装工事を行った。

その中の一つに、豊島区にあるホテルAがある。
改装のために急遽作ったお粗末な非常階段が骨組みのようにホテル全体を覆っており、とても特徴的な外見となっている。

よく言えばFF7のミッドガルっぽい。

悪く言えばスラム街のようであった


そんな見るからにヤバそうなホテルに、私は泊まった。
コロナの流行が始まる2年以上前だっただろうか。

と、いうのも週末に飲み明かしていたら、終電がなくなって帰るに帰れなくなり、深夜料金のタクシーに乗るのも馬鹿らしいということでホテルを探していたら、ほとんどのホテルがチェックイン時間を終えている中(ラブホは週末で満員)バカ安い値段で(たしか4000ちょいだった)泊まれるホテルがある!しかもなんかめちゃくちゃ見た目怪しいし面白そう!
……ということで怖いもの見たさで泊まることにしたからである(ちなみに後々計算したら深夜料金のタクシーで帰ったほうが普通に安かったっぽい)

もう、五輪も終わってネガキャンにもならないと思うので、今回はその時のお話をしてみたいと思う。





現地につくと、「ビジネスホテルに改装済み」とは思えないほどのラブホテル臭。
「全室WOWOW見放題!」という五輪需要に対応したかのような小賢しい看板が目に入った。

中に入ると、繁華街のクリニックか?と思うような狭いフロント。
そこに東南アジア系の店員が、ポツンと一人立っている。
一瞬、バングラデシュにでも来たのかと錯覚したが、店員の言語はめちゃくちゃ片言ながらもなんとか日本語。

これまたラブホ感丸出しの古びたキーを渡され、せっまいエレベーターに乗り込む。
たしか、階数が8階かそれ以上くらいあり、こんな狭いエレベーター1つで間に合うのか?と思ったことをよく覚えている。

部屋に到着。
先程も話したが、勿論カードキーなどではない。
地方の公衆便所のようなボロ臭い丸いドアノブに、針金でピッキングできるんじゃないかというほどに頼りない鍵をさしこむ。

開かない。

何度かガチャガチャとやるが開かない。

3回くらいさし直したところでようやく扉が開いた。


独房か?




殺風景な部屋にはなんとか人が通れるかというくらいのスペースとベッドが1つ。
先程独房と言ったが、昔、見学に行った刑務所の独房のほうがよほど広くて清潔であった。
一応ユニットバスがついており、扉を開けると名探偵コナンのCM明けみたいな「キィィィィィ?」という音がする。

恐ろしい。

ちなみに、この時、実は不幸にも付き合わされたツレがおり、部屋に入るやいなやまるでマグロ漁船に無理やり乗せられたみたいな表情をしていた。
未だにそのホテルのことを「公衆トイレ」と呼ぶ。普段は比較的良いホテルに泊まることが多い故か、現実を認識できていないようであった。

勿論、部屋とユニットバスを仕切る扉に防音性など皆無であり、どちらかが用を足すと5.1chサラウンドで排尿音が部屋中に響く。ホテヘルでも呼んだときには一部のマニアにはいいんじゃないかな、知らんけど。

浴槽はお世辞にも綺麗とは言えず、シャワーヘッドも汚れており、ここで風呂に入る方が病気になりそうだったので入るのをやめた。

もう、寝てしまおう。
寝ればなんとかなるということで寝ようとしたが……
まず、酸素が薄い。
ラブホテルは窓が少ない故によくあることなのであるが、にしても酷い。
どんどん沈んでいく潜水艦にでもいるような気分になってくる。

一応窓があったので、開け、なんとか床にはついたものの、3時位であっただろうか?
謎の工事が始まった。


カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!



正気か?




夜中の3時だぞ?

しかも、アホほど揺れる。4DXの映画館のような迫力である。

そしてさらに、壁が薄い故、廊下の声が丸聞こえ。
明らかに日本語ではないタガログ語のような言語で、盛り上がっている女二人の声が聞こえる。

30分経とうと、1時間経とうと、一向に会話が終わらない。
もしやコイツら従業員なのではないか……?という不安が頭をよぎる。



苦しむこと1時間あまり。耳を塞いで、工事の揺れを揺りかごのようにイメージすることでなんとか眠ることができたが、起きたらやすいベッドで体はバキバキだし、ろくに眠れた気もしないし、遊び半分でこんなところに泊まるべきではないと身体が叫んでいた。

気づくと、チェックアウト時間ギリギリであり、こんなところで延長料金をとられてたまるものかと急いで部屋を出る。

すると、目に飛び込んできたのはエレベーター前の行列。昨晩の不安はやはり的中した。


そこそこのキャパのホテルにこんな4人くらいしか乗れないエレベーター1つで間に合うわけがない。
皆、なんとか乗ろうと頑張っているが、ラッシュ時の東西線のように押し込まれ、恐ろしいものとなっている。
コロナ流行前であったため、まだよかったが、コロナ禍はどうしていたのだろうか。

このままエレベーターが空くのを待っていたら、チェックアウト時間に間に合わない……!


覚悟を決め、廊下の突き当りの扉を開く。
工事現場の足場か?というほど隙間だらけで頼りない非常階段がそこにはあった。

下を向くと、階段の隙間から、路上に歩く人が見える。
高所恐怖症の私は、こんなのを降りるのは通常時であったら絶対に避けるところであるが、背に腹は代えられない。なるべく苦痛を感じる時間が少ないよう、素早く駆け降りる。

地上についた時、今ならアフガニスタンから帰還した米兵の気持ちがわかるような気がした。

エレベーターがめちゃくちゃ混んでいたことで、察しの良い方ならお分かりかもしれないが、フロントも大混雑。
例の東南アジア系の兄ちゃんが、明らかにキャパオーバーな量をワンオペでさばいている。

この時点で、チェックアウト時間はギリギリ……このまま待っていたら延長料金をとられてしまう……

同じように考えていたのか、ガラの悪い小太りの男が
「え”え”ぇんっ!」
とよくわからない声を出し、待合の机に鍵を投げ捨てその場を後にした。
何人かがそれに続く。


私としてもそうしたい気分は山々であったが、さすがに憚られたため、大人しく順番待ちをする。

ようやっと回ってきた頃には、既にチェックアウト時間を大幅にオーバーしている。
鍵を返却すると、例の兄ちゃんは無表情で受け取った。
それだけ。

「延長料金……」

と言いかけると「は?」みたいな顔をされ、次の客の対応に入った。

きっと、彼にとってはこれがいつものことなのであろう。
あの量の客全員から延長料金をとっていたら手間だし、もめることも必至だ。
次回の来館にも繋がらないであろう(二度目を利用する奴がいるのかはしらないが)

ともかく無事このアトラクションから脱出することができた私達は、昼食を探しに街に出た。
その途中、個室型ネットカフェの料金を見て、こっちの方が安いし遥かにマシだったんじゃないかという会話をして辛くなったが、過去を振り返っても仕方がない。

何を食べたのかは覚えていないが、お詫びに私の金でそこそこ良いものを食べたということは記憶にある。

この記事を書く際に、気になって調べたが、このホテルは絶賛営業中である。なんとコロナ禍を乗り越えたらしい。


グーグルのレビューには「安い」ことによる高評価がチラホラ見られたことから、ホテヘルなどを呼ぶのにはちょうどよいのだろうか?

レビューの中には「靴を脱ぐスペースもない」という頷けるものもあれば「少しでも過ぎると延長料金を請求してくる」という私の記憶とは異なるものもあった。
もしや、あの時の兄ちゃんはサービスしてくれたのだろうか……

私自身は絶対に二度と泊まらないし、ここに泊まるくらいなら留置所で夜を明かしたほうがマシだとは思うが、ネタにはなるので皆さんにもオススメしたいと思う。


というか、自分だけ辛い思いをするのは嫌なので少しでもこの不幸をばら撒いていきたい。
私はそういう人間だ。

気になった方はぜひ、「俯瞰」公式Twitterアカウント@FukanJPか、私のアカウント@kyonkun_sosまでDMを送ってきて欲しい。

新たな被害者の誕生を諸手を挙げて歓迎しようではないか。







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