元「総理」も選挙に落ちる!?-衆院選2021特集

元「総理」も選挙に落ちる!?-衆院選2021特集

首相経験者は選挙に強い。

わざわざ言わずとも「そりゃそうだろ」とお思いになる方も多いだろう。
何せ余程の世間知らずでない限り、先進国である日本において自分の国のトップをしないなどという者はいないからだ(一部発展途上国においては『ヒトラー』は知っているが自国の大統領は知らないなどという笑い話もあるが)知名度は抜群と言っていい。

それに加え、元々、首相というのは党内での評価が高いことは勿論、有権者にも評判が良いことが求められる。そのため殆どが首相就任前から選挙区の地盤が盤石である者が多い。
そういった訳で首相経験者というのはめったに「落選」しないのだが、歴代の首相には3人、落選した方がいる。


一人目は片山哲氏。

日本国憲法施行後初の内閣総理大臣を務めた彼は、何と首相経験者にも関わらず二度の落選を経験している。

これにはそれ相応の理由があり、一年足らずの短命政権に終わったことだけでなくその「中身」にも問題があった。
保守との連立政権は滑り出しからバラバラな状態であり親任式当日までに閣僚が決まらないという異常事態、いわゆる「一人内閣」でスタートを切った。
その後も政策はガタガタ、社会主義理論を鵜呑みにした上GHQの言いなりとなり「グズ山」とも呼ばれる始末、与党内の造反を招き、わずか8ヶ月あまりの短命政権となった。

その後、第24回総選挙では野党第一党の党首ながら落選。
第25回で再当選し、その後は親中派として日中国交正常化に尽力するものの
第30回総選挙で再び落選し、政界を引退した。

しかし、片山氏の場合、就任したのが終戦直後の混乱期であり、無茶な連立政権。
そして、何より所属政党が「社会党」である。社会党自体が第24回総選挙では143議席→48議席とボロ負けしており、仕方ないとは言わないまでも誰であってもなかなか難しいものがあっただろう。


二人目は石橋湛山氏。

皆さんご存知であろう悲運の総理大臣である。

国民からの絶大な人気を誇り、また手腕も確かであった同氏であったが就任から一ヶ月余りで脳梗塞により倒れ、退陣した。

在任期間は65日。これは憲政史上4番目に短く、日本国憲法下だけに限ると2番目の短さとなる。
また、日本国憲法下において唯一、国会での演説や答弁なしに辞任した唯一の首相でもある。

この去り際の潔さには野党である社会党書記長、浅沼稲次郎氏でさえも「政治家はかくありたい」と感銘を受けていたというのは有名な話だ。
だが、そのエピソードが強烈すぎる故か、その後の動向については語られることは少ない。

回復後、彼は自民党ハト派の重鎮として政治活動を積極的に行い、当時安保改定に取り組んでいた岸の反対をよそに中国に接近。周恩来首相との会談を実現させ、石橋・周共同声明を発表し、これが日中共同声明の土台となった。

しかし、当時自民党は安保改定に力を注いでおり、それに批判的な石橋の存在は少なからず悪影響を及ぼしていた。

そのような禍根もあってか、第30回総選挙では石橋氏の選挙区において、自民党は河野一郎氏の元秘書官、木部佳昭氏を新たに公認。
定数5の選挙区に対し自民党候補者が4人出馬するという泥沼の戦いとなり、石橋氏は敗北。
持ち前の潔さはここでも発揮されたのか、政界をそのまま引退することとなった


そして三人目、海部俊樹氏。

同氏の政権もまた、9ヶ月足らずの短命政権であったことは皆さんもご存知であろう。

リクルート事件により当時の大物政治家が軒並み離党や謹慎を余儀なくされた89年。
クリーンなイメージを持ち、なおかつ強い政治基盤を持たず傀儡にしやすいという点から、海部氏に白羽の矢が立ったといわれている。

発足当初から、金丸・竹下・小沢のいわゆる金竹小に実権を握られており、中でも当時の幹事長であった小沢一郎は閣僚人事すらも掌握し、首相である海部氏は一切組閣に関われないほどであった。

退陣時もなかなかに不憫な状況であり悲願であった政治改革法案について、自らの知り得ぬところで秘密裏に廃案の方針が決定され、それに対抗し伝家の宝刀である解散権の行使を匂わせたところ、途端に党内が大反発。
味方であるはずの竹下派小沢勢力までも反対派の結束を恐れ離反し、孤立した海部氏は総裁任期満了とともに総辞職した。

なんと退任時ですら国民の支持率は50%を越えており、派閥に翻弄された末の無念な結果であった。

その後、自社さ連立時に党の方針に反発し離党。
新党を点々とした後、自ら新進党を結党し初代党首となるものの、その後もまた点々とすることとなり、実に7回も所属を変えた後、所属する保守新党が自民党に吸収合併され古巣に復帰。

ようやく本来のホームグラウンドでの戦い……と思いきや次期衆院選で8万票以上の大差をつけられ惨敗。
自民党の73歳定年制により重複立候補もできず、比例復活も果たせずに落選となった。
勤続年数48年9ヶ月、在職50年目前での無念の引退であった。

落選の原因は、名古屋のベッドタウン化に伴う無党派層の増加に加え、自民党全体への逆風、高齢批判が高まっていた中、78歳の海部氏に対し、対立候補岡本氏が38歳という若手であったこと。
そして、海部氏がアピールしていた「首相時の功績」について知っている者がその短命さ故か、同氏の装幀より少なかったことがあると言われている。


以上が元「総理」でありながら落選した3名の簡単なご紹介であるが、共通しているのは「短命政権」であったこと、そして政治的手腕とは別の要因が退陣に大きく関わっていた方々であったということはおわかりいただけただろうか。


さて、ここからが本題である。

そんな歴史的にもまれな「首相経験者の落選」を今回の選挙で見れるかもしれないとしたら、どうだろうか。
しかもそれが純粋に「政治的手腕がなさすぎる」が故に首相を引きずり降ろされた政治家だとしたら……?

めちゃくちゃ面白そうではないか

そんな歴史的瞬間が見れるかもしれないのは


「東京18区」

同区には武蔵野市、府中市、小金井市が含まれている。
武蔵野市には、豊かな自然とオシャレなカフェの街、吉祥寺があるが
その区内の素敵さとは真逆に、今度の選挙戦は

クッソドロドロなものとなっている。

同選挙区は「あの」菅直人氏が選出された選挙区であり、前回希望の党から候補が出馬し、保守分裂となるまでは、元武蔵の市長である政敵、土屋正忠氏に叩きのめされ続けてきた。
はい、これでおわかりかもしれないが史上4人目の「首相を経験した落選者」となるかもしれないのがこの菅直人氏である。

というか、厳密に言えば落選はしているのだ。小選挙区で。
それを情けないとも思わずに比例復活にすがってしぶとくゾンビのように生き残り、今もバッジを付け続けているのが同氏である。

菅直人という男がどれだけ酷い政治家かというのは日本に生きていて3.11を経験した人間であるなら誰でも嫌というほど理解しているだろうし、いちいち全部羅列していたら六法全書くらいの長さになってしまうため割愛させていただくとして、彼は●も弱ければしっかりと選挙も弱いのである。

おそらく、先述した希望の党の奇襲による保守分裂がなければまたしても小選挙区で敗北していたことはたしかであろう。

そんな仕事人「菅(すが)」と真逆のスッカラ管(かん)と今回相対するのはなんとあの長島昭久氏である。菅直人内閣では防衛大臣政務官を務め、民主党東京都連の幹事長まで務めた同氏が自民党から出馬!

つまりは元味方同士の戦いであり、ナルトとサスケ、アムロとシャア(Z時に味方になっている)、セシルとカイン、の戦いのようなアツいもの……といいたいところだが残念ながらそこまでの華はない。

長島氏は自ら望んだわけではなく、自民党への入党と引き換えに自らの選挙区を没収され、躊躇うような大した恩もないのであろうか、元ボスの選挙区に刺客として送り込まれた。

「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」という台詞があるが、民主には民主をぶつけるということだろうか。

ここで長島氏のフォローをしておくと、同氏は元々民主党の中でも保守派であり、憲法や安全保障関連にも現実的な政策観を持っていた。
そこに来て民進党が共産党との選挙協力などを言い出し、それに反発して離党したのであり、けして主義主張がコロコロ変わっているわけではなく、むしろ一貫していると言える。

ただ、自民党としては散々批判してきた民主党から入るのだから、それくらいはやってのけて初めて正式に仲間として認めようといった感じなのだろう。

しかし、長島氏が所属している二階派は二階幹事長の辞任に伴い影響力が低下。幹事長であれば莫大なカネと権力により存分なバックアップができるというものだが、今回はそうはいかず「簡単な勝利」とはいかない。

つまり、ただでさえ元味方同士の選挙で泥沼だというのに懐事情も相まってさらなるドロドロベットベトの選挙となるのである。
こう聞くとすごい面白そうではないだろうか。

だが、「接戦」ということは長島氏が勝ったとしても、菅直人は比例復活してしまうのではないかと勘の良い方ならお思いであろう。

その通りである。

しかし、ま さ か 散々自民党の高齢化だの多選だのを批判している立憲民主党さんが菅直人氏が小選挙区で負けたとして、自民党の基準では比例復活が許されない75歳という年齢の同氏を比例復活させるなんてことはないだろう。

そんなことをしてしまっては明らかな矛盾であるし、元首相としてのプライドが欠片でも残っているなら、菅直人氏もそれは避けるであろう。

その上、さすがに「元部下」に鞍替えした選挙区で負けたとあっては恥ずかしくて国会に顔を出すことなどできないのが普通の人間の感覚ではないだろうか。

ましてや、菅直人氏は元活動家である。
そんなみっともなく議員バッジにしがみつくような真似は学生時代の自分が許さないはずだ。

ですよね?菅直人さん。





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